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読書の夏 2006年8月22日 23:44 投稿

 夏休みは読書のためにあった10代の頃は遠い日々と嘆いていた昨今ですが、時間を作ればどうにかなるものだとばかりに、夢中で読んでしまった本のお話です。

 その作家の名前は「アゴタ・クリストフ」。ハンガリー生まれの女流文学者で、現在はスイス在住です。恥ずかしながら、この年になるまで彼女の名前はもちろん作品も知らなかったのですが、「文盲ーアゴタ・クリストフ自伝」を新聞の書評で読み、彼女の作品に興味を持ち、早速、図書館で借りてページを繰っていったのです。
 「悪道日記」「二人の証拠」「第三の嘘」がシリーズ三部作です。順を追って読破していったのですが、ページを繰るのがまどろっこしいほど、読者を引きつける文体とストーリー展開で一気に読まされてしまいました。フランス語が理解できたら原文で味わいたいと、叶うはずもない思いまで抱かせてくれました。
 「悪道日記」は<少年の身体のような贅肉を削いだ文章>という表現で世界中の注目を浴びた文体は、形容詞をできるだけ使わず「言った」「話した」等、きっちりと文切ってしまうのですが、それが、戦争の悲惨さをより一層際立たせていくのです。戦争という不条理、それを受け入れなければならない子どもたちの運命を、あくまでも客観的に自分の主観を交えずに表現できる方法、それは、彼女の生きてきた人生そのもののようにも思えるのです。
 「悪道日記」に続く2作品は「悪道日記」の文体から次第に変わって行くのですが、抽象画家がかつては写実画も描いていたような、そんな印象を持たせてくれました。良い意味で読者を裏切ってきれたアゴタ・クリストフという作家に出会えた今夏でした。
 戦争は「悲惨」の一言に尽きると思います。私は幸いなことに「戦争」を経験していませんし、これからもその経験をしたいとは望んでいません。これは、かつて読んできた本・戦争体験者からの話、そして映画などの映像から十二分すぎるくらい「戦争はダメ」を理解してきました。彼女の作品には、無駄を省くことで「悲惨」を表現しています。多くを語るよりも事実を突きつけられた時、個々人の想像力の力量が試される文章でありながら、世界中から絶賛を浴びたということは、人間の良心も捨てたものでは無いなと、私なりの解釈もしています。

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